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レイ・チェン

(c)Tat Keng Tey

演奏家

レイ・チェン

ストラディヴァリウス1714年製ヴァイオリン「ドルフィン」

日本音楽財団の楽器貸与事業を通じて、世界最高峰のストラディヴァリウスのヴァイオリン数挺を演奏するという素晴らしい機会をいただき、心より感謝申し上げます。2009年にエリザベート王妃国際音楽コンクールで優勝して以来、これらの楽器と共に歩んできた道のりは、私の人生においてまさに革新的な体験でした。

それぞれのヴァイオリンが独自の個性を持つ教師のように、音色や表現のさまざまなニュアンスを私に教えてくれました。アルバム「Virtuoso」の録音で使用した1708年製「ハギンス」から、直近まで共にあった1714年製「ドルフィン」に至るまで、偉大な楽器とは単なる優れた道具ではなく、音楽を共に創り上げるパートナーであり、演奏者が楽器を育てるのと同時に、楽器も演奏者を育ててくれるものだと学びました。

私が学んだ最も重要なことのひとつは、偉大な音とは何かということです。経験から言うと、ストラディヴァリウスのヴァイオリンには何世紀にもわたる演奏を経て磨かれた響きがあります。それはまるで、自然のEQ(イコライゼーション調整)のように、音色を深め、洗練させるものです。これこそがストラディヴァリウスの特別な魅力であり、弓を当てたときの反応、音が広がる様子、そして無限の表現の可能性を示してくれます。

音色だけでなく、それぞれの楽器が持つ個性を知ることも、素晴らしい経験でした。たとえば1715年製の「ヨアヒム」は、あらゆるレパートリーに適応できる万能型でしたし、1714年製の「ドルフィン」は、その輝かしい音色と圧倒的な力強さでどのようなホールにも響き渡るような楽器でした。それぞれのヴァイオリンが私の演奏を形作り、適応性、探求性、そして音楽家としての成長を促してくれました。

楽器貸与の申請を考えている若い音楽家の皆さんには、ぜひともこの貴重な機会に挑戦してほしいと思います。素晴らしい楽器を演奏することで、皆さんの演奏、音色はもちろんのこと、音楽そのものに対する理解さえも変わるかもしれません。これらの名器を守りつつ、音楽家に貸与するという日本音楽財団の尽力は、音楽界にとって計り知れない贈り物です。

この4月に「ドルフィン」との時間が幕を閉じるにあたり、この旅を振り返り、改めて深い感謝の気持ちに満たされています。音楽家を支え、これらの名器を未来へと受け継いでいくためのあらゆるご支援に、心から感謝申し上げます。

(2025年3月)

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