演奏家・楽器商の声

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竹澤 恭子

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演奏家

竹澤 恭子

ストラディヴァリウス1710年製ヴァイオリン
「カンポセリーチェ」


ストラディヴァリウスとの出会いは、かれこれ20年前になります。初めて手に取り、弦に触れたときの衝撃は忘れることが出来ません。底なしの宝石の海に飛び込んだような感触とでもいいましょうか、それまでに感じたことのない音の響きや木の振動に我を忘れ、音の探検のために何時間も弾き続けたものです。ストラディヴァリウスという楽器は、それまでに弾いたどの楽器よりも音のキャパシティーが大きく、つぼにはまった時の音は、なんと高貴でエレガントな音色!自分でもこんな音が出せるのかと感動いたしましたが、単発的にそういう音が出るものの、それらを手の中に納めて楽器の主導権を握り、コントロールする事は、当初、容易ではありませんでした。楽器の隅々まで知り尽くし、その魅力を最大限に引き出し、かつ、自分自身が本来持っている音の特性を楽器に伝え、コミュニケーションをとりながらそれらを融合させ、今度はそれをいかに音楽表現に生かすことが出来るか。 日本音楽財団のご厚意により貸与されました「カンポセリーチェ」との出会いは5年前です。この5年間、日々、楽器との対話を繰り返し、密にコミュニケーションをとってまいりました。楽器のニスの美しさと同様に、磨き抜かれたダイヤモンドの高貴な輝きを思わせる音の艶、どんなに大きなコンサートホールにおいても、はりのあるフォルティッシモから消え入るようなピアニッシモまで、立体感を失うことなく響く音の魔力に、最初のうちは圧倒されながらも、音楽表現をしていく過程で、様々な可能性を楽器から教わったと思います。それは画家が絵画を描く行程―素晴らしい発色の絵の具と出会い、インスピレーションを得、よりたくさんの色のパレットが生まれ、それらの色を駆使して名作を描き上げる―と似ていると思います。

「カンポセリーチェ」は生きているかの如く、5年が経過した今もなお私にインスピレーションを与え続け、新しい「何か」を発見させてくれます。このストラディヴァリウスの魔力は、楽器誕生から300年経った今も生き続け、たくさんの人々を魅了しています。この魔力はこれからも、いや、永遠に生き続けていくことでしょう。

(2009年12月8日開催 日本音楽財団演奏会プログラム掲載)

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